糖尿病
私たちが、パンやごはん、甘いものなどを食べると、からだの中で分解されてブドウ糖になります。ブドウ糖は脳や体を動かすためのエネルギー源として使われるために、血液の中を移動して全身へ送られます。エネルギー源として使用されずに余ったブドウ糖は、脂肪細胞の中に蓄えられます。ブドウ糖を細胞内に吸収してエネルギーとして使ったり、蓄えたりするために重要なのが、すい臓から分泌されるインスリン(ホルモンの一種)です。糖尿病では、なんらかの原因でインスリンのはたらきが悪くなったり、インスリンの分泌量が少なかったりして、ブドウ糖が血液中にあふれてしまいます。そうなると血糖値が高くなるのですが、この「血糖値」とは血液中のブドウ糖の量のことを指します。血液中のブドウ糖が慢性的に増えると、血管や神経に悪影響を及ぼすことがわかっています。
糖尿病の種類
糖尿病には、いくつか種類があります。1型糖尿病、2型糖尿病、妊娠糖尿病、他の病気が原因で発症する糖尿病などです。今回は、糖尿病のほとんどを占める1型糖尿病と2型糖尿病について説明します。
1型糖尿病
ウイルス感染などがきっかけで、すい臓のインスリンを作る細胞が壊されてしまい、インスリンがほとんど分泌されなくなるので血糖値が高くなります。比較的若い方に発症することが多いといわれ、急激に症状が出ます。またやせ型の方が多いといわれています。1型の患者様の場合は、インスリンの注射による治療が必要です。
2型糖尿病
遺伝的な要因に加えて、肥満や運動不足、食べ過ぎなど環境的な要因の影響で発症する糖尿病で、日本人に増えています。インスリンが出づらくなったり、インスリンの効きが悪くなったりすることによって血糖値が高くなります。中高年に発症することが多く、肥満の方が多いといわれています。治療法には、食事療法、運動療法、薬物療法があります。
糖尿病の怖い3大合併症
糖尿病を発症しても、自覚症状がないことがほとんどです。だからといって放置していると、生活の質を下げる、または命に関わるような合併症を引き起こすことがあるので要注意です。糖尿病の患者様によくみられるとされる3大合併症は以下のようになります。
糖尿病網膜症
網膜は、眼球の奥にある膜のことで物を見るために必要な組織です。網膜には、細かい血管が通っていて、血糖値が高い状態が長く続くと血管が傷つきます。最終的に、血管が破れて出血することや、網膜がはがれてしまうことがあり失明の原因になります。成人以降の失明の原因で、糖尿病網膜症が1位となっています。
糖尿病腎症
腎臓には、からだの中の水分や老廃物を尿として排出する大切な役割があります。腎臓にも細い血管がたくさん通っています。血糖値が高い状態が続くと血管は傷つき、腎臓の機能も低下して最終的に腎不全とういう状態になります。腎不全になり、尿や老廃物を排出できなくなると生命を維持することが難しくなるので透析療法や腎移植が必要になります。日本において、透析療法が必要になる腎不全の原因として最も多いのが糖尿病腎症です。
糖尿病神経障害
神経は私たちがからだを正常に動かすために、全身にくまなく張りめぐらされています。血糖値が高い状態が続くと、この神経が障害されて全身にさまざまな症状が出ます。例えば、手足のしびれや痛み、下痢や便秘、立ちくらみ、勃起障害などです。熱さや痛みに対する感覚が鈍くなるので、やけどや靴ずれなどがきかっけになり、細菌感染を起こしてしまうことがあります。足の感染の状態が悪い場合には、指や足を切断しなくてはいけなくなる可能性もあります。
糖尿病が疑われる方に行われる検査内容
糖尿病が疑われる方には、主に血液検査が行われます。合併症の有無を見るために、心電図や神経の検査、眼底検査(糖尿病網膜症の有無の確認)なども行われることがあります。
血液検査には、血糖値、HbA1c(ヘモグロビンA1c)、GA(グリコアルブミン)、Cペプチド、血中インスリン、抗GAD抗体などがあります。血糖値の検査項目には、空腹時血糖値、食事に関係なく血糖値を測定する随時血糖値、ブドウ糖負荷による血糖値があります。HbA1cは1-2か月の血糖値の変動を、GAは1-2週間の血糖値の状況を反映するといわれています。Cペプチドや血中インスリンは、インスリン分泌の程度やインスリンの量などが確認できます。1型糖尿病では、血液中の抗GAD抗体が陽性になることが多いので、診断のために検査する可能性があります。
糖尿病の診断基準
糖尿病は、血液検査(血糖値、HbA1c)や症状をもとに診断します。血糖値とHbA1c両方の血液検査結果が高かった時や、血糖値が高く、典型的な糖尿病の症状(口の渇きや多飲、多尿など)がある場合や、糖尿病網膜症を認めた時には1回の検査で糖尿病と診断されます。典型的な症状がなく、血糖値またはHbA1cのどちらかが高い場合には、「糖尿病型」と診断され、別の日に再検査をして診断を確定します。
なお正常より血糖値が高めなので注意した方がよいですよ、という方は糖尿病予備軍と呼ばれます。この場合、正常の方に比べて糖尿病を発症しやすいことがわかっているので注意が必要です。診断基準では「境界型」の方が糖尿病予備軍に該当します。まとめると以下のようになります。
糖尿病型
- 空腹時血糖値が126mg/dl以上
- 随時血糖値が200mg/dl以上
- ブドウ糖負荷試験血糖値が200mg/dl以上
- HbA1cが6.5%以上
境界型(糖尿病予備軍)
- 空腹時血糖値が110mg/dl以上126mg/dl未満
- ブドウ糖負荷試験血糖値が140mg/dl以上200mg/dl未満
- HbA1cが6.5%未満
正常型
- 空腹時血糖値が110mg/dl未満およびブドウ糖負荷試験血糖値が140mg/dl未満
治療方法について
糖尿病の治療法には、食事療法、運動療法、薬物療法があります。糖尿病を発症したら、ずっと薬の内服やインスリン注射をしなければいけないと考える方もいますが、2型糖尿病の場合には食事療法や運動療法で血糖値が改善することもあります。主治医と相談しながら、最適な治療法を選びましょう。具体的な治療内容は以下のようになります。
食事療法
暴飲暴食、偏った食事は糖尿病の原因になります。野菜や魚などを中心としたバランスのよい食事を3食、規則正しく摂ることが大切です。体格や毎日の運動量によって、1日の必要なエネルギー量は違うので栄養士や医師の指導のもとで個人に適した食事療法を行います。
運動療法
軽く息があがるようなウォーキング、ジョギング、サイクリングなどは有酸素運動と呼ばれ、カロリー消費、減量に効果的といわれています。一方で、筋力トレーニングなどのレジスタンス運動は筋力を増やすことができるので、代謝を上げて、インスリンが効きやすいからだになる効果を期待できます。有酸素運動とレジスタンス運動をバランスよく行うことが重要です。
薬物療法
糖尿病の薬物療法には、主に内服薬とインスリンの注射薬があります。薬にも、インスリンの分泌を促進するもの、インスリンの効きをよくするもの、食後の血糖値を下げるもの、糖を尿から排出させるもの、などさまざまな種類があります。患者様によっては、1種類の内服薬でよい場合もあれば、いくつかの内服薬を組み合わせる必要がある場合もあります。
受診した方がよいとされる方
食生活や生活環境の変化などにより、日本人において糖尿病を発症する人が増えています。糖尿病を発症するリスクが高い要因として、肥満、糖尿病の家族歴、運動不足、加齢、血糖値の上昇などが考えられます。具体的に、どのような方が受診した方がよいか以下に挙げるのでチェックしてみてください。
- 健診などで血糖が高いと言われたことがある
- 最近、体重が増えた(肥満気味)
- 20歳の頃に比べて10kg以上太った
- 外食が多い
- 野菜をあまり食べない
- お酒をよく飲む
- 運動不足である
- 親族(特に親、兄弟、姉妹)に糖尿病の人がいる
- 車に乗る機会が多い
- デスクワークが多い
- 妊娠時に尿から糖が出ていると言われたことがある
- 40歳以上である
- 血圧が高くて薬を飲んでいる